1年前、私はエジプトを旅していた。世界50カ国を回ったが、ここエジプトの人々はとりわけ明るく、そしてとてもフレンドリーだった。カメラを向けると笑顔やポーズを作ってくれたり、初対面でもいきなり打ち解けて親身に話ができた。貧富の差は大きいようだったが、街は活気づいていた。私はこの国をすぐに好きになった。また行きたい国だった。
しかし、今エジプトは混乱状態に陥っている。1万人がタハリール広場に集まり、大声を上げている。「ムバラクはすぐにやめろ!」
大統領支持者もいる。
「次の大統領選挙まで待とう。」
1981年、私が生まれる前に大統領となり、それからずっと政権を保ってきたムバラク大統領。国民が誰がこの国を統治しているのか知らしめるため、ムバラク大統領の顔写真が街のいたるところに貼られていたのを覚えている。
ムバラク大統領はあまりに権力の座に着きすぎた。それが最大の功罪であるが、ムバラク大統領が長期政権を保ったおかげで、エジプトは長い間安定していた。過激なイスラム原理主義が台頭する国々とは違い、政教分離を行い、過激な勢力を徹底的に排除したからだ。
外交面でも、エジプトとイスラエルが手を結んだおかげで(イスラム諸国からは批判が多くあったが)、「イスラム共和国」対「イスラエル」という対立を和らげることができたのだ。
ムバラク大統領は決して悪い部分ばかりではないのである。むしろその強いリーダーシップを持つことができたからこそ、格差は大きいもののアラブ圏の経済大国になることができたのだ。
しかし、長期政権を保ちすぎたこと、格差是正に力を入れることを怠っていたのだ。政権交代自体は望ましいことである。
だが、これからこの情勢はどのようになっていくのか。
今考えられるのは、
1.9月の大統領選までムバラクは大統領を続け、政権の円錐な移行に尽力する。
2.野党勢力の言うように、すぐに辞任し、申請権を発足させる。
このどちらになっても非常に厳しいことは否めない。
1.をとってみると、野党勢力はより過激な行動をとるようになりかねない。軍はデモに対して危害を加えることはないと言っているが、過激となったら話は別である。一度衝突が起こればそれが大きな争いへと発展する可能性も大いにある。そしてそれはイスラエルとエジプトの同盟関係を維持できなくなり、再びシリアなどがイスラエルへ銃身を向けかねない。また、同じ長期政権を保つ中東諸国への混乱の波及は加速する。中東は再び大混乱に陥るだろう。
2.野党勢力の言うようにするに大統領がやめるとしよう。しかし、次期大統領の有力候補がまだいない。次の指導者はだれなのか。何の準備もなしに政権を交代させても、混乱を招くだけであるのは目にみえている。この混乱はエジプト国内での争いを巻き起こす。
また、どちらにも言えることであるが、政権交代後イスラム同胞団が政権を握れば中東の政治力学は大きく変化する。イスラエルとの同盟を取り消す可能性もある。イランのように反米政権へ転換する可能性もある。そしてそれらは中東諸国のあらたな火種となるのである。
このエジプト問題は相当に深刻な問題なのだ。
とにかく今必要なのが、大統領と野党勢力の和解である。和解することで円錐な政権交代を実現させ、過激な方向へ向かわぬようにしなければならない。失敗すればアラブ諸国は大変なことになる。とてもデリケートなのだ。
この際、9月まで野党勢力との連立政権を立たせ、ムバラクと野党の共同政権を作るしか方法はないように思う。これを実現するしかない。
時が流れるほど、導火線の火は進んでいく。急がなければならない。
0 件のコメント:
コメントを投稿